(山口) 厚生仙台クリニックは2014年から引き継いだクリニックですが、母体の仙台星陵クリニック開業当初は、まだインターネットがない時代でした。看板にもCTやMRIなどと書くことはできず、宣伝をするのにも苦労しました。ホームページを作れるようになり、やっと患者さんに医療情報を提供することができるようになりましたが、広告の規制などの観点から書ける範囲は制限されています。
患者さん向けの広告には規制がありますが、医療関係者向けにはもっと各医療機関の詳細について知るツールがあってもいいのではないかと思います。
製薬会社には、アクセスした最初に医療関係者ですか? という選別があるが、そのような選択肢を作る発想で医療機関同士でも作れるのではないでしょうか。
(山岡) 患者さんからの口コミに「AIによるダブルチェックのようなものがあって安心できた」というものがありましたね。AIについてはどのようにお考えでしょうか。
(山口) AIに関しては胸部レントゲンのような一度にたくさん読影する場合や、アンギオなどの定型画像の評価に有効なのではないかと考えています。異常を指摘するところは実現が早そうですが、その画像所見の解釈までおこなうとなると、まだ時間がかかるでしょう。
将来的に、読影のレポートまでやってくれるようになったらうれしいですね。
(山岡) グループとして様々な展開をしていますが、どのように展開していったのですか?
(山口) 私たちは、困っている患者さんに当時まだ新しい技術であった画像診断を早く提供したいというところから出発しました。中でも、がんと認知症の2つをテーマにしています。
私が大学を卒業した頃は、東北大学の施設である抗酸菌病研究所(現在の加齢医学研究所)と、その附属病院のような位置付けでの仙台厚生病院が同じ敷地内にありました現在は、仙台厚生病院は独立していますね。私自身は東北大学出身で、大学に所属していた頃からのつながりで、研究もやりつつ臨床もやれる環境ということでこの2つの施設で勤務していました。
現在の放射線科は、「画像診断」と「放射線治療」とに大きく系統が分けられますが、以前はそれほど明確には分かれていませんでした。私も、画像診断とがんの放射線治療の両方をやりたいと思って医師になったものです。
そして30年前脳ドックをやりたい・画像診断のクリニックをやりたいという思いで母体の仙台星陵クリニックを開業しました。当時は画像検査のみの放射線科標榜だけでは保健所からダメと言われた時代で、内科も一緒に診るクリニックを立ち上げたわけです。開業してからも大学の研究室とずっと繋がりがあり、臨床もやり、研究もやりというスタンスは私の軸としてありました。
がん診療との関わりで、がん検診は当初からおこなっていたものの1つですね。脳ドックの延長として、アミロイドPETを使った認知症の診断もやっています。画像診断をメインに、関連する事業・診療を広げていった形です。
開業から時が経つにつれ、内科で診療してきた患者さんの年齢ももちろん上がってきます。ほかの医療機関へお願いすることもできましたが、長く診てきた患者さんのニーズに応えるために、仙台すこやかクリニック(介護)や老健施設Challengeすこやかを立ち上げました。
元々は研究者指向でしたがこのように流れや需要に合わせているうちに、さまざま展開するようになったのです。「放射線科医がなぜこんなクリニックを?」と思われることもありますが、関連する事業、必要な事業に手を広げていった結果、今に至りました。
(山岡) 画像診断を武器にクリニックを立ち上げるというのは、当時としては珍しかったのではないでしょうか?
(山口) そうですね。今でこそ「画像診断センター」などが多くつくられ、医療機関の一類型として認知されていますが、当時はMRIが普及し始めたくらいの時期で、周りから理解されず歯痒い時期もありました。金融機関の方にも不思議がられましたね。千葉や京都にも、似たような施設ができていたと記憶しています。
MRIが普及し始めたとはいえ、今よりも撮影に時間がかかったので、大学でも1日に処理できる件数に限りがありました。放射線科医であっても、MRIをきちんと使いこなせる医師はまだ少なく、検査まで4か月待ちという状況も珍しくなかったですね。今とは違い、画像機器がない病院も多かったので、そういったニーズの高まる時期に開業したのが良かったと思います。
PET検査に関しては、黎明期から東北大学が研究面でリードしていました。私が所属する研究室も関与していて、PET検査を用いたがん診療が保険収載される前から力を入れていた領域です。私たちも、がん診療をするのであればPET検査を持ちたいと考えていたところ、2014年に縁があり、現在の厚生仙台クリニックを引き継いだ形です。
ただの大学勤務医だった私が、もう1人の医師と2人で開業し、いろいろな方のサポートによってここまで走ってくることができたと振り返ると、感慨深いです。
(山岡) 医師複数名体制に関してはどうでしょうか。僕たち医療者側は、1人では不安なので相談や確認したいことがあるときに安心ですし、メリットが多いです。しかし、患者さんからは、同じ先生に診てもらいたいという声も聞かれます。
(山口) 1人で診療を完結させるには、どうしても医師にストレスがかかりますよね。専門医であっても、相談できる相手がいるという安心感は大きいです。患者さんとしては「同じ先生がいい」という気持ちもわかります。患者さんと医師との相性はどうしてもありますからね。ですが続けていくうちに、緊急の時は別の先生が診るなど、患者さんも徐々に理解してくれています。
(山岡) 厚生仙台クリニックでは、当日にすぐ結果説明をおこなっているそうですね。
(山口) 検査を受けたあと、結果を聞く日までなかなか安心できないでしょう。私たち医師も、早く結果が知りたいと思いますよね。
ですから、当日に説明を聞けるのは、患者さんにとって大きなメリットだと考えています。画像診断の専門医がいるからこそできることです。検査結果を画面に映して、説明しています。
(山岡)グループが大きくなってくると、大変なことも多いでしょうか?
(山口) グループが大きくなり、スタッフがそれぞれの部署に分かれていますから、実際に現場に行かないとわからないということは増えましたね。
コロナ禍以前は、年に1回合同研修会と称して集まり、お互いのやっていることを発表したり、困っていることを相談したりする機会を持っていました。改善案を出し合うなどして、グループ全体として良い方向に進むきっかけになっていたのですが、今は行えていないのが残念です。
組織が大きいと、見えない部分も出てきてしまいますし、距離感としてなかなか言えないということもあるでしょう。ある程度、やむを得ないのかもしれません。そろそろ、合同研修会を再開したいなと思っています。
(山岡) 僕も同じように感じています。30人ぐらいの規模だった頃は、意思疎通ができないという事態はなかったと思いますが、やはり今の規模感になれば、入職して1年経っても私と話すのに緊張してしまうスタッフもいますよ。
我々のグループでも、開業当時から僕がクリニックの方針などについてプレゼンをする機会を持っています。やはりコロナ禍ではできなくなりましたが、一昨年から再開しました。
(山口) トップが何を考えているのかをしっかり伝えることは大切ですよね。
(山岡) お互いの法人に、どのようなことを期待していますか?
(山口) 私たちの法人ではPETがん検診を積極的におこなっていますが、内視鏡、特に上部消化管でみる領域は弱いです。早期胃がん/大腸がんはPET検査ではわかりません。得意な領域をお互いに補完しながら、がんの早期発見に繋げていければいいですよね。
逆に、消化器内科の先生方に対しては、がんの治療が終わった方で再発・転移のフォローの面でお役に立つことができます。PET検査は侵襲性が低いですし、がんの治療歴があれば保険診療でおこなえます。ご高齢の方でも安心して受けていただけますので、気軽にご依頼いただいて、協力していければ嬉しいです。
(山岡) それはありがたいですね。がん種によっては、定期フォローのCTだけでは、心許ない場合もあります。
患者さんは、「再発しているのではないか」「詳しく調べてほしい」という思いを持っている方が多いですから、安心材料になると思います。
(山口) とはいえ、PETのない施設でやってきた先生方にとっては「PET検査をどう依頼していいのかわからない」といった難しい位置付けなのかなと、日々感じますね。
アメリカではがんを疑えばPETファーストですが、日本では保険診療の影響もあり、安い検査から順番にやっていくということが多いです。最初から意義の高い検査をおこなっていけたらと、考えています。